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千葉地方裁判所館山支部 昭和43年(わ)41号 判決

主文

被告人を禁錮一年に処する。

訴訟費用は全部被告人の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、自動車の運転業務に従事している者であるが、

第一、昭和四二年一〇月二日午後三時三五分頃普通乗用自動車を運転し、江見町方面から天津方面に向つて進行し、安房郡鴨川町横〓九〇五番地先路上に差しかかつた際、自車の前に数台の自動車が一列になつて一時停止して前方交差点の信号が進行になるのを待つていたのであるが、この様な場合はハンドル、ブレーキ等を確実に操作し事故の発生を未然に防止すべき業務上の注意義務があるのに、これを怠り、ブレーキをかけるのを遅れた過失により自車をその直前に一時停止中の川名俊子(当三四年)運転の普通乗用自動車に追突させ、よつて、右川名俊子に対し全治約二週間を要する鞭打ち症の、同車の助手席に同乗していた川名輝男(当四四年)に対し全治約三週間を要する鞭打ち症の、各傷害を負わせ、

第二、同年一二月二六日午前一一時五五分頃、普通乗用自動車を運転し、安房郡江見町岡波太一五四の一〇番地先八岡隧道内を鴨川町方面から江見町方面に向つて時速約三五キロメートルで進行したが、隧道内は暗く、又対向車の前照灯の光が眩しく、一時前方等の注視が困難な状況であつたから、自車の前照灯を点灯し、十分減速徐行して、前方等を充分注視し、安全を確認して進行し、もつて事故の発生を未然に防止すべき業務上の注意義務があるのに、これを怠り、前照灯を点灯せず、対向車にのみ注意を向け、前方注意を怠りながら、前記速度のまま進行した過失により、隧道内左端(被告人より見て)を歩行対向して来た山田もと(当六八年)に気付かず、自車の左前部を同女に衝突転倒させ、同女に対し頭部顔面打撲症、脳挫傷、右手部骨折の傷害を負わせ、同日午後二時三〇分鴨川町東九二九番地亀田総合病院において、右脳挫傷により死亡するに至らしめた

ものである。

証拠の標目(省略)

(法令の適用)

判示被告人の所為は、第一、二共に、行為時においては昭和四三年法律第六一号刑法の一部を改正する法律による改正前の刑法二一一条前段罰金等臨時措置法二条一項、三条一項に、裁判時においては右改正後の刑法二一一条前段、罰金等臨時措置法二条一項、三条一項に該当するが、犯罪後の法律により刑の変更があつた場合であるから、刑法六条、一〇条により軽い行為時法の刑を適用することとなるが、第一は一個の行為で数個の罪名に触れる場合であるから、刑法五四条一項、前段一〇条により、重い川名輝男に対する業務上過失傷害の刑によることになるが、第一、二共に所定刑中禁錮刑を選択し、これらの罪は同法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条、一〇条により重い第二の罪の刑に法定加重した刑期の範囲内で被告人を禁錮一年に処することにし、訴訟費用については刑事訴訟法一八一条一項本文により全部被告人の負担とした。よつて主文のとおり判決する。

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